Moon and Star

アニメの感想とか色々なチラシの裏を綴ります

百合は「男性向け」か「女性向け」か

 

 先日、こんなアンケートを実施しました。

 

 

 

 幸いにも多くの方(当社比)から投票をいただき、最終的に219票が集まりました。投票してくださったみなさんありがとうございます。結果は、ご覧の通り8割弱の方が「どちらでもない/どちら向けとも言えない」と答え、「男性向け」は1割強、「女性向け」と答えたのは約1割でした。


 言うまでもなく、私のTwitterアカウントのフォロワーには「百合ファン(と、ここでは便宜的に呼称します)」の方が多いですし、一方でRTで拡散してくださった方の中には百合ファンかどうかTwitterのプロフィールから明らかでない方も含まれているため、回答する方が違えば違う結果になる可能性もありますので、あくまで参考にするという程度にとどめておいてください。


 ここから先は私による個人的な見解・分析であり、アンケートの結果自体とは無関係ですので、その点をご留意した上で読んでいただくと幸いです。

 

 

はじめに

 

 そもそも、なぜ私が今回このようなアンケートを実施するに至ったかというと、先日Twitterで「男性向け百合アンソロを買ったら逆カプもあった、男性は逆カプを気にしないのか」というアンケートが炎上しているのを見かけ、その際に「そもそも『男性向け』とは…」といった議論が一部で盛り上がったため、百合ファンの方は百合の「男性向け」「女性向け」をどう捉えているのかが純粋に気になったためです。

 

 さて、今回のアンケートに対する私の率直な感想としては、事前に「男性向け」「女性向け」「どちらでもない」が3:2:5くらいかなと予想していたので、「どちらでもない」が思ったより多くてちょっとだけ意外、というものです。とはいえ、この数字自体はそれなりに現状に見合ったものではないかと考えています。

 

他ジャンルについて


 百合に限らず「男性向け」「女性向け」とはどういった性質の作品・ジャンルが当てはまるでしょうか。

 「男性向け」の方では、pixivなどでは「R-18」などと一緒のタグがつけられていることが多いようです(http://dic.pixiv.net/a/%E7%94%B7%E6%80%A7%E5%90%91%E3%81%91)。つまり、一般的にはヘテロ男性を主にターゲットにしたもの、つまり女性のエロを描いたものが「男性向け」としてイメージされることが多いようです。

 「女性向け」の方では、pixiv百科事典(http://dic.pixiv.net/a/%E5%A5%B3%E6%80%A7%E5%90%91%E3%81%91)、ニコニコ大百科http://dic.nicovideo.jp/a/%E5%A5%B3%E6%80%A7%E5%90%91%E3%81%91)などを参考にすると、一部では「女性向け=腐向け」というイメージがあるとされているものの、実際は「女性向け」と言っても「腐向け」から「(いわゆる)NL」、「夢小説」まで多様なイメージがあるようです。「男性向け」と比較すると、「女性向け」の場合必ずしもエロと結びつけられるというわけではないようです。

 

個々の作品における「男性向け/女性向けの百合」


 それでは、個々の作品レベルであえて「男性向け/女性向けの百合」を分類するなら、皆さんはどのような作品をイメージするでしょうか。もちろん、アンケートの結果から分かる通り「百合に男性向けも女性向けもないだろう!」という方も多いと思いますが、少し想像を膨らませてみてください。

 

 「女性向け」の百合


 女性向けの百合作品と一口に言っても、人によってそのイメージは大きく異なると思います。例えば一般的には、『青い花』や『オクターヴ』に代表されるような、女性同士の恋愛を正面から描き、感情描写に重きを置いた作品を「女性向け」とイメージする方もいるかと思われます。「ドロドロ」「鬱」といったキーワードと一緒に語られることもありますね。


 また、一般的に「百合」というジャンルの歴史が語られるときには、「エス」と呼ばれるような戦前の少女小説や、90年台の美少女戦士セーラームーン、そして2000年台のマリア様がみてるなどの作品がしばしば語られることがありますが*1、どの作品も基本的には(作品自体のファンやその性質はともかく)「女性向け」の媒体・文脈で発表された作品です。*2

 百合を「女性向け」と考える方の中には、こうした百合の歴史を念頭に置いている方も多いのかもしれません。


 「女性向け」といえば、先日とあるソーシャルゲーム開発企業が“業界初の”「女性向けガールズラブシュミレーションゲーム」を発表*3してちょっとだけ話題となりました。

 このゲームは、いわゆる「乙女ゲー」と呼ばれるような「女性の主人公が“複数の男性”のうちのだれか一人と恋愛するゲーム」における“複数の男性”の部分をそのまま“複数の女性”に置き換えた*4ゲームのようです。「乙女ゲー」はその名の通り基本的に女性のプレイヤーを想定していますから、ここで言う「女性向け」とはつまり「女性のプレイヤーを想定した」という狭い意味での「女性向け」ではないかと考えられます。

 逆に言えば、百合作品の制作側が「女性向け」としての要素を前面に出す例はこれ以外にはほとんどなく*5百合に関して「女性向け百合作品」といった要素がそれほど強調されないことの裏返しであると言えるかもしれません。

 

 「男性向け」の百合


 「男性向け」の百合作品としては、いわゆる「日常系」と呼ばれる『けいおん!』や『ゆるゆり』のようにかわいい女の子同士の恋愛未満のイチャイチャを描いた作品、あるいは乳房や性器、直接的な性描写に重点をおいた作品をイメージする方も多いかもしれません。


 「男性向け」に関しても、「女性向け」と同様、制作側が「男性向け」を前面に出す例はそれほど多くないものの、百合アンソロジーコミック『メバエ』シリーズは公式に「男性向け」を謳っており、(あくまでR-18ではないものの)実際に性描写のある作品を数多く掲載しています。

 

 「男性向け/女性向けの百合」に関する私見

 

 それでは、私自身は「男性向け/女性向けの百合」についてどう考えているのか、という話になりますが。私の個人的な感覚としては、ここまで言っておきながらなんですが、『青い花』も『オクターヴ』も『けいおん!』も『ゆるゆり』も「男性向け/女性向け」だとは思っていません。*6

 そもそも、個々の作品レベルで見たとしても、「男性向け」「女性向け」を判別することはかなり難しく、先に述べた「女性向けガールズラブシュミレーションゲーム」の例の場合のように、極めて限られた用法で「男性向け」「女性向け」を使っていくのが望ましいのではないか、と考えています。『けいおん!』や『ゆるゆり』にしても女性ファンはそれなりの割合で存在するという話はよく聞きますし、『青い花』や『オクターヴ』の読者もほとんど男女の格差は無いのではないか、と推測します。

 

 また、「女性向けの百合」がなかなかイメージしづらいのに比べて、「男性向けの百合」に関してはいわゆる「日常系」をすぐにイメージする方が(百合ファン、非百合ファン問わず)多いのではないでしょうか。特に、百合に関して詳しくない方にとっては、「女の子がいっぱい出ているから男性向けなのか!」と極めて安直な発想(と、ここではあえてそう言います)に至りやすい点も注意する必要があります。

 

 なお、今回は「『百合』に何を含めるか、『男性向け』『女性向け』をどう定義するかも含め、自由に考えてお答えください」という留保を付けたため、例えば「日常系作品を百合に含めるな!」と考えている方がいたり、あるいは「ガチな女同士の恋愛は百合じゃない!レズだ!」と考えている方もいるという可能性もあります。*7そうした各百合ファンの「百合」に対する捉え方の違いというものもなかなかややこしいものがあります。

 

百合ジャンルの男女比について


 「男性向け」「女性向け」(「どちらでもない」)の分類としては、そのジャンルのファンの男女比をもとに判断するという方法も考えられます。それでは、「百合ファン」の男女比は実際のところどれくらいなのでしょうか。

 「百合を愛する〈百合人-ユリスト-〉のための総合誌」を謳う『百合人―ユリスト―』第一号(2012)によると、100人へのアンケートで「女性5割強、男性3割強、1割は「それ以外の性別」で回答している」(http://rensai.jp/49774)としています。「百合文化の現在」が特集された『ユリイカ 2014年12月号』掲載のジェームズ・ウェルカー「倉田嘘『百合男子』に表された百合ファンダムの姿についての一考察」でも、『百合人―ユリスト―』を引用しつつ百合ファンの半数以上は女性であるように見えるし、その内訳にはレズビアンバイセクシュアルの女性も含まれており、…」とされています。

 しかし、私としてはこうした男女比にはやや懐疑的であり、「百合・百合作品をどこまで好きか」で「百合ファン」あるいは「百合ファン」かどうかを区別するかは人それぞれであるにせよ、今や男性の「百合ファン」の方が多いのではないかという気がしています。GLF*8の一般参加者の多くが男性だという話もよく聞きますし。*9

 

 いずれにしても、現在の「百合ファン」の男女比は伯仲しており、「百合」というジャンルを「男性向け」あるいは「女性向け」と断じることができるほどの男女比は無いといえるのではないでしょうか。こうした現状を正しく認識している百合ファンの多くが、「どちらでもない」に投票したのではないか、ということが考えられます。

 

おわりに


 最後になりますが、私が上で『青い花』『オクターヴ』を上げたところからも分かる通り、正直言ってこれまで述べてきた百合論は古いです。具体的には、2014年辺りまでしか通用しない議論です。

 『やがて君になる』『小百合さんの妹は天使』『ヴァルキリードライヴ マーメイド』『響け!ユーフォニアム』といったような多様な百合作品(?)が登場し、一部のTwitter上で「男が好きって百合なんだよな…」なる概念が爆誕するなど、百合界隈が急激な勢いで変化を続ける2015年、2016年を踏まえた百合論としては、もう少し“新しい”議論が要求されてくるはずです。

 百合界隈の歴史・現状に精通した方々におかれましては、是非ともこうした点についての議論を深めていき、百合界隈の発展に貢献していってほしいところです。

 

 

追記

 こんな9年前のpostを見かけました。(↓)

d.hatena.ne.jp

 当時から「男性向け、女性向けに分けることにあまり意味は無いのではないか」と述べられているのはなかなか興味深いですね。

*1:なお、百合の歴史において『セーラー服 百合族』のようないわゆる「レズものAV」などの存在も無視すべきでないとする論もあります(要出典)が、ここでは省略します。

*2:つまり「エス」は少女小説として、『セーラームーン』は女児向け漫画・アニメとして、『マリア様がみてる』は少女向けレーベルのコバルト文庫から発表されているということです。とはいえ、例えば百合要素の強いアニメとして名高い『プリキュア』シリーズや『アイカツ!』は女児アニメですが、百合として楽しんでいるファンの多くは成人男性であり(もちろん女性も少なくない)、「女性向けの媒体・文脈であること」と「ファンや作品の性質が女性向けであること」とは必ずしも一致しないことは言うまでもありません。

*3:公式サイトはこちら(http://yuri-ri.mobi/)。ところで私もこのゲームを結構楽しみにしているのですが、「2015年秋リリース予定」にもかかわらず未だに延期の発表すらなく、開発の進捗が心配になっています…。

*4:乙女ゲーと同様、攻略対象となる女性キャラクターは男装キャラからおっとり系まで幅広く取り揃えているようです。

*5:もっとも、他の「女性向け」作品もわざわざ「女性向け」と看板にデカデカと書いたりすることもそうそうなかったりしますが…。

*6:余談ながら、「カップリング文化」を「女性向け的な要素」として捉えるなら、むしろ『ゆるゆり』辺りは「女性向け」に近いんじゃないかなぁとか思ったり。

*7:今では懐かしい百合レズ論争ですね。このご時世にそんな考えの人がいるのかは疑問ですが…。

*8:百合オンリーの同人誌即売会

*9:なお、古いデータにはなりますが、2008年7月号時点の『コミック百合姫』読者の男女比は男性27%、女性73%であるのに対し、当時はまだ存在した『コミック百合姫S』の方は男性62%、女性38%となっています。(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%9F%E3%83%83%E3%82%AF%E7%99%BE%E5%90%88%E5%A7%ABS)しかし、
近年の『コミック百合姫』読者の男女比は約7:3であるとする情報もあり(要出典)、この男女比に関しては注意が必要です。